雨夏ユカリの趣味ノート

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ぼくたちは勉強ができない90話・武元うるかは何故キスをしたのか?(週刊少年ジャンプ感想/2019年1号③)

ぼくたちは勉強ができない

 

今週のぼく勉感想、気合い入れて書きすぎて分量が普段の3倍。さすがに笑う。

 

 

文乃編が終了し、「いつもの受験態勢」に戻ったかと言えばそうではなく、文乃の成幸を見る目が間違いなく変わっている今週

 

すごい。うるかや緒方の前でも平然と「成幸君」と呼ぶようになった文乃。これはもう今後ずっと「成幸君」呼びになるんでしょう、いやあ感慨深い。

 

そのうえでこれですよ。

 

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空気が恋人のソレ

 

 

文乃の視線が完全に恋する少女のソレ。メスの顔をしてやがる。

 

でも、こうやって成幸への気持ちに素直になれているということは、やっぱり文乃は「自分の本当の気持ちを否定されること」を恐れていたから成幸への気持ちに気づかなかったんだろうな。

 

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父親から夢を認められ、成幸からも認められることで、彼女の中の恐れは薄れていった。その結果として、ようやく彼女は自分の気持ちに正直に生きられるようになった。そういうことなんだろう。

 

こういう日常シーンの中に文乃編の影響が描かれるのは大変すばらしい。私はこれを待っていた。

 

 

しかしながら、これまたすごいなと思うのが、文乃の「成幸君」呼びにうるかも緒方も反応が薄いこと。

 

考えてみれば当たり前なんだけど、こういうことに「気が付く」のは文乃のキャラクターで、ほか二人は気づかない。文乃とは違う理由で自分の気持ちに無自覚な緒方も、他人に敏感ではないうるかも、文乃の変化に気づくわけがなかった。

 

でもここでぼく勉がうまいなと思ったのが、「ヒロインが変わったことで起こる、別のヒロインへの影響」を友達を使って作り出したこと

 

緒方やうるかの「文乃の変化」に気が付かないというキャラクター性をしっかり守ったうえで、「気が付ける」友達によってうるかに影響を与える作劇はお見事としか言いようがない。

 

まあ緒方の友人はポンコツだから、文乃の変化を受けて動くのがうるかだというのも実に納得。

 

 

でもまさか、そのうるかが最後にキスをするとは全く思ってなかったよ!!

 

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衝撃のシーン



 

うるかは「逃げる」ヒロインなんだよな。まあこれは成幸との恋愛距離がぶっちぎりで近かったからバランスのために遠ざける必要があった、という大人の事情もあったかもしれないのだけれど。それでも、彼女は「逃げる」ヒロインだ。

 

基本的に彼女の言っていることは全部言い訳だ。うるかは「これ以上好きになりたくない」「今が幸せ」「やれることをやるまでは誰も好きにならない」と、そう言い訳を続けて踏み込まない。その根底には「気持ちを伝えて成幸に嫌われたくない」という恐れがある。だからこそ今の停滞を願っているし、変わらないでほしいと思っている。

 

だから、そんな彼女がキスという関係をぶっ壊すことをしたのは衝撃だった。マジかよ。そのうえで海外留学の件を告白した。マジかよ。

 

というわけで、私はなんで彼女がキスをしたのかがすごく気になった。なんでだ。いったいなんでうるかはキスをしたんだ?

 

 

最初に頭に浮かんだのは「成幸への気持ちが溢れた結果」だった。無意識で感じた文乃の変化、自分の海外留学、ギクシャクした今の関係、そして抑え込んでいた「好き」という気持ち。それらが全部ぐしゃぐしゃになって、思わずキスをしてしまったのではないかと思った。

 

でも、それでは彼女の表情に説明がつかなかった。

 

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キスをしたうるかの、すごく寂しそうな表情


 

彼女はキスをしたのに、すごく寂しそうにしている。悲しそうにしている。うるかは今まで、何度も成幸への気持ちが溢れ出してイチャイチャしてたけど、そのたびに彼女は幸せそうな顔をするか照れるかしていた。決してこんな寂しそうな顔はしていなかった。

 

だから多分、「成幸への気持ちがあふれたから」ではない。それどころか、多分プラスのキスではないんだろう。これは彼女のマイナスの心がさせたキスだとしか思えなかった。

 

 

じゃあなんで、彼女はキスをしたんだろう?

 

マイナスの気持ちだとしたら、いったいどんな気持ちが彼女をそうさせたんだろう?

 

私は、その前の会話がヒントになると思った。彼女はその前に、「やれること全部やりきるまでは、好きな人なんていない」と言った。そう成幸に告げて、そしてその「やれることのために好きな人を捨てる」という決断の象徴たる「海外留学」を成幸に告げた。

 

だとするならば。あれは、「成幸への気持ち」に決着をつけるためのキスではないのか。自分の中の気持ちを捨てるためのキス。別れるためのキスなのではないか。

 

と思ったのだけど、でも何かが違う気がした。決別のキスという要素は含むのかもしれないけれど、違う要素が存在しているんじゃないかと思った。

 

 

そのうえで、もう一度うるかのセリフを拾っていくと、彼女はこう言っている。「あたしってさー、水泳が恋人みたいなトコあるじゃん? やっぱりそれでいいってゆーか…そうじゃなきゃだめなんだ」、と。

 

このセリフはおかしい。こんなこと言ったら成幸以外の人間は気づくだろう。「『やっぱり』それでいいってゆーか…そうじゃなきゃだめなんだ」と言っているということは、そう思い込まなきゃいけない何かがあったということに。

 

そして、彼女が嘘をついているということに気づくだろう。もし聞いていたのが文乃なら、その裏にある理由にも気が付かもしれない。

 

彼女は「自分の気持ちに気が付く」ためのヒントを送っている。そうだとしたら、そのすぐ後に決別のキスをするのは何かが違う気がした。

 

考えてみれば、うるかは今まで成幸から距離を置きつつも、成幸と親密になるチャンスは活かそうとしていた。今回だって人工呼吸作戦を実行してたし、二人でオープンキャンパスに行ったりもした。

 

彼女は「成幸から距離を置こう」としつつ、その実「成幸と距離を縮めたい」と思ってる。

 

そこまで考えて、私はこう思った。

 

彼女は気づいてほしかったんじゃないだろうか、自分の気持ちに

 

彼女は自分から伝えることはできない。拒絶されるのが怖いから。だけど、それでも「気付いてほしい」。それがうるかのキャラクターなんじゃないだろうか。

 

だから、成幸が「他に好きな人がいる」という言葉をいつまでも信じていることに対して、「いないよそんな人」とあんな表情で言ったんじゃないだろうか

 

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複雑そうな顔をするうるか

 

好きな人がいない、と言いつつも「本当はいる」と気付けるヒントを成幸に出したんじゃないだろうか

 

そうだとするなら、あのキスはSOSのキスなんじゃないだろうか。「これも、ただの練習」なんて明かに嘘とわかる言葉を吐きながら、その言葉が嘘だと気づいてほしいと願う。

 

そして、他の自分の嘘も全部気付いて、自分の気持ちに気が付いてほしい。そんなSOSがあのキスには込められていたんじゃないだろうか。

 

だから、そのあとに海外留学の話もしたんじゃないかなと思った。海外留学や成幸に対して自分が思っている気持ちを、成幸に気が付いてほしい。そして、助けてほしい。

 

自分の恋心を隠し続け、隠し通したうるかが、しかしその行為に苦しみ、SOSを出した。だから彼女はあそこでキスをしたんじゃないか。

 

もちろん、そんなに考えるキャラクターではないから、無意識にそう選択して。

 

もし、これでも成幸に気付いてもらえなかったら……うるか、ヤバそうだな……。生きて、頑張って生きて!

 

 

……というわけで、今週のぼく勉はすごかった。

 

というか、うるかにせよ文乃にせよ、本当に人間味あふれるヒロインになったなと思う。初登場時には全然そんな雰囲気なかったのに。

 

筒井先生のキャラクター描写の巧みさは本当にすごいし、なんなら日に日に強くなっているように思う。まさかこんなことになるとは思わなかったよ。

 

 

今週のぼく勉のことを考えるのはすごく楽しかったし、果たしてこの予想があっているのかいないのか来週までワクワクできるのもうれしい。

 

これだけ語って的外れだったらさすがに超絶恥ずかしいな…

 

 

※本記事内で使用している画像は、『ぼくたちは勉強ができない/筒井大志/週刊少年ジャンプ』より引用しております。